概念というものの性格


〔2006.09.07記〕

概念について、これまでに自分のWebページ(ホームページ)やこのブログに書いてきたことをまとめておく。おおよそつぎのようなものである(新たに詳述した部分もある)。概念という語の定義(語義)については前稿「概念は『言語』に先立つ(4)」を参照していただきたい。


■概念は経験を通じて形成される。つまり周囲に存在する同じような、似たようなものごとに出会うことによってはじめて概念は形成される。概念はものごとをカテゴリーにおいて(=類として)とらえた認識である。

■人間は概念を形成する能力を乳幼児の段階からすでに持っている。この能力は生得のものであるが、多くの生得能力と同様にこの能力は経験を通じて完全なものになる。概念を形成するこの能力すなわち概念化能力は、種類という認識をする能力であり、複数のものごとを類別し分類する能力である。類別はいくつかのものごとの中から共通性と差異とを抽

出し、その共通性によって類つまりカテゴリーを形成することである。分類は異なるカテゴリー間に上位・下位・等位の序列が存在することを認識することである。つまり、分類とはカテゴリー相互の間の包含関係を認識し、その相互の包含関係を階層構造として認識することである。したがって概念はカテゴリーの階層構造と相似な上位・下位・等位の序列をなす階層構造を持っている。

■概念の形成は対象と出会う都度行われる。何の対象も契機もなく概念が生じることはない。そして、同じ対象であっても形成される概念の内容は時と場合によって異なる。それは対象をどのカテゴリー階層において把握するかの違いである。そしてどのような共通性にもとづいてカテゴリー化(概念化)するかは個々の人間において必要に応じて合理的・恣意的に行われる。


社会を構成する人々の間で、共通に認識されたカテゴリー(概念)とそれを表わすための語に関する規範認識が自然成長的に体系化されたものが言語規範である。科学的研究によって合理的に類別され分類された概念の体系とそれに関する言語規範はいまでは広く一般の人たちも共有している。

■概念の形成が言語規範の成立よりも先である。つまり人間が概念を形成する能力をもっていることが言語を作り出すための必要条件である(言語を作り出すには他の条件も必要)。したがって、幼児が言語および言語規範を習得するためには、幼児の側に概念を形成できる能力が備わっている必要がある(これにも他の条件が必要)。このことはさまざまな新語についても成立する。科学研究や技術の進歩あるいは生活環境の変化等によりものごとについての知見や知識が新たになり、さらにそれらのものごとについての概念が形成された段階(一般には当事者の間で一致した概念が確立した段階)ではじめてその概念に対応する語が作られる。


新しく発見された元素や天体の名前について考えてみればそのことはよく分かる。キュリー夫人によって発見された放射能を持つ新元素はその性質が研究され、それまでに知られていた他の元素とは異なるものであることが分かってからラジウムという名がつけられたのである。発見される以前に、/ラジウム/ という音韻とその元素についての概念がキュリー夫人の頭の中にあらかじめ存在していたわけではない。