マイナスかけるマイナスはなぜプラスになるのか(2)


〔2006.09.28追記〕

テーブル・タグを使ったタイルの表示がうまくいかないようです。この稿については FC2ブログの「マイナスかけるマイナスはなぜプラスになるのか(2)」をご覧ください。

〔2006.09.12記・09.13一部修正/追記〕

さて正負の数の乗法であるが、かけ算をどう定義するかである。もっとも一般性のありそうなのは(速さ)×(時間)のような(1あたり)×(いくら分)――示強因子(内包量)×示量因子(外延量)――であろう。等速直線運動における速さや時間・距離は実数値で表わされるから、水道方式のように(1あたり)×(いくら分)を乗法の定義として用いるのがもっとも妥当だと思われる。

小学校の3年生で扱うのは整数×整数である。それは「三輪車一台あたりの車輪の数は3個です。三輪車4台では車輪は何個になりますか」のような形の問題であり、水道方式では三輪車4台の絵を示した上で、その車輪の数を次のようなタイル図 (a) で表わし、累加(同じものを繰り返して加えること)の結果として答が得られることを示す。そして、これから下の図 (b) のように(1あたり)×(いくら分)という形式、つまり 3×4=12 という形式の演算としてかけ算を導入する。

(a)

SSS
SSS
SSS



(b)

S×S

SS

小学校の高学年では、かけられる数(被乗数)・かける数(乗数)が小数や分数で与えられるかけ算を学ぶ。ここでタイルが威力を発揮するわけである。

(正の数)×(正の数)、(負の数)×(正の数) ×(正の数)は累加であるから、×(正の数)のタイル図は小学校のかけ算の延長である。(1) (+3)×(+4)=+12, (2) (−3)×(+4)=−12 となることを下に示す。


(1)

SS(2)

0 を前提としたタイル表示かけ算に限らず計算を始める前は 0 である。当たり前過ぎてふつうは誰も気にも止めないが、どんな計算式でも式の最初には「0+」の部分が前提されている。たとえば、(+3)×(+4) は 0+(+3)×(+4) である。そこで、上の(1) (+3)×(+4), (2) (−3)×(+4) を「0 を前提としたタイル表示」で表わすと次のようになる。


(1)

SS(2)

上の図の (1)は 0 に +3 を4回累加した結果 +12 になったことを表わしており、(2) は 0 に −3 を4回累加した結果 −12 になったことを表わしている。


図の (1),(2) で左側にある 0 の部分の横の長さが 5 になっているが特に意味はない。横の長さはどんな大きさでも構わない。要は 0 の部分では正のタイルの総数と負のタイルの総数とが同じになっていなければならないということである。また縦のサイズはかけられる数の +3, −3 に合せている。これも正・負それぞれが同じ数で 3個以上であればどんな大きさでも説明の用に足りる。

負の数をかけることの意味 正の数をかけることは累加という操作を表わしている(ただし、累加する数は正の実数値に拡張されている)。そうすると負の数をかけることは累加と反対の操作である累減(同じ数の引き算を繰り返すこと)として表わされる(累減する数も実数値)。したがって、×(負の数)は 0 からある数(かけられる数)を累減したものと考えればよい。そこでここでは下図 (c) のものを 0 として用いることにしよう。


(c)

← これは 0 である。

(正の数)×(負の数)、(負の数)×(負の数) 上図の 0 を使って (3) (+3)×(−4), (4) (−3)×(−4) をタイルで表わすと次のようになる。


(3)

SS(4)

上の図の (3) は 0 から +3 を4回累減した結果 −12 になったことを表わしており、これは上の (2) と同じ結果を示している。また(4) は 0 から −3 を4回累減した結果 +12 になったことを表わしており、これは上の (1) と同じ結果を示している。

こうして、(1) (+3)×(+4) と (4) (−3)×(−4) とが同じ結果 +12 になり、(2) (−3)×(+4) と (3) (+3)×(−4) とが同じ結果 −12 になることが示されたわけである。


図の (3), (4) で用いた 0 の部分では、横の長さが 10 になっているが、累減する数 4 より大きければ横の長さはどんな大きさでも構わない。縦のサイズはかけられる数の +3, −3 に合せて 6 にしているが 8 や 10 などでも構わない。0 を表わすときには、□と■の数が同じになるようにすることと、□を上側・■を下側という風にまとめておくことがポイントである。

以上が、ふだん中学一年生に対して私が行っている正負の数のかけ算についての説明である。「マイナスの数かけるマイナスの数がプラスの数になること」を直観的にご理解頂けたであろうか。

これらの結果から正負の数の乗法においても交換法則が成り立つことが示され、また被乗数および乗数が小数や分数であってもタイルを使って同じように表わせることも分かる(式・図は省略)。以上の説明では触れなかったが、0 は何回累加・累減しても 0 であり、どんな数も 0回の累加・累減では 0 になる。したがって、a がどんな実数であっても 0×a=a×0=0 である。

上のタイル図を頭の中に入れておくと、等速直線運動をモデルとして(速さ)×(時間)=(距離)の関係から正負の数のかけ算の性質を説明する方法なども、すっきりと理解できるかもしれない。


数直線上を走るおもちゃの車を考える。(速さ)は右方向(→)に向かう場合を正とし左方向(←)に向かう場合を負とする、距離は現在の位置(原点)を基準として右方向(→)を正とし、左方向(←)を負とする位置(変位)として測る。また、時間は現在を基準(0秒)として、未来をプラスとし、過去をマイナスとする。

たとえば毎秒 3cm で左方向(←)に進むおもちゃが 4秒前にいた位置は (−3)×(−4)=+12 として求められる。これは原点から 3cm ずつ 4回 バックして(→の方向に)戻った位置が +12cm であることを示している。



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