マイナスかけるマイナスはなぜプラスになるのか(1)


〔2006.09.28追記〕

テーブル・タグを使ったタイルの表示がうまくいかないようです。この稿については FC2ブログの「マイナスかけるマイナスはなぜプラスになるのか(1)」をご覧ください。


〔2006.09.11記]

塾などというものをやっているせいか、「マイナスかけるマイナスはどうしてプラスになるのですか。いまだによく理解できないのですが…」といった質問を大人の方から受けることがときどきある。そんなときに私が用いている説明をご紹介する。タイルを使ったものだがたいていはすんなりと納得していただけるようだ。

正の数・負の数は中学一年生の最初の頃に学ぶことがらである。教科書や参考書にもいろいろと説明が書いてあるが、直観的に「分かった!」といえるようなものはないように思う。もう二十年以上前から私が用いているタイルによる正の数・負の数の説明はおそらく私のオリジナルであろうと思われる(同じようなものにお目にかかったことはない)。

タイルは、遠山啓さんが提唱して現在も数学教育協議会を中心に行われている「水道方式」という算数・数学の指導法で用いられるもっとも基本的な教具・シェーマである。これは小学生に計算や数や量の指導をするときに非常に役に立つもので単に直観的に理解しやすいばかりでなく、小・中学生には(あるいは大人でも)その計算過程を論理的に理解するのがむずかしい小数や分数のかけ算・割り算も、タイルを使えばなぜそういう計算をすれば解けるのかが理解できるという大きな長所をもこのタイルは持っている(タイルによる分数のかけ算・割り算については『学習支援 まなびの函』というサイトの「学習のポイント 算数」にその説明がある)。

しかし、水道方式は小学校の算数ではタイルを大いに利用しているが中学校の内容になると「約数・倍数」などでちょっと使うだけで、正の数・負の数ではまったく使わない(トランプを利用した指導法が主流である。上で紹介したサイトの「学習のポイント 数学」でもその方法が紹介されている)。これは宝の持ち腐れであろう。タイルを用いた正負の数の指導方法(私の方法)は分かりやすさという点では他に例を見ない方法であると自負している。

さて、いきなり正負の数のかけ算に入るのは無理なので、日頃中学一年生に教えているステップを多少(かなり)端折りつつ順に説明を進めて行こうと思う。以下テーブル・タグを利用して作ったタイル図によって説明する。一応 IE6.0 と Firefox1.5 ではきちんと表示されることは確認済であるが他のブラウザではきれいに表示されないかも知れない。その点はご了承いただきたい。

正のタイル・負のタイル 正負の数を扱うのだから当然「負のタイル」が必要である。私の方法では、正の数には白いタイル、負の数には黒いタイルを使う(黒いタイルを使うのは私のオリジナルである)。したがって、下のように白いタイル一枚が +1 を表わし、黒いタイル一枚が −1 を表わす。



=+1 =−1

(正の数)+(正の数)、(負の数)+(負の数) (+3) は白いタイルを縦または横に3個連結したもので表わされ、(−4) は黒いタイルを縦または横に4個連結したもので表わされる。そうすると、(1) (+3)+(+4) のような正の数どうしの加法は単純に白いタイルのかたまりどうしの連結であるし、(2) (−5)+(−3) のような負の数どうしの加法は黒いタイルのかたまりどうしの連結であるから、答がそれぞれ +7, −8 になることは簡単に分かる。また、負の数どうしの加法でも交換法則が成り立つことは明白である(式・図は省略)。小数や分数についても小数・分数のタイルを使うことによって同じ結果が得られる(式・図は省略)


(1)
(2)

(+1)+(−1)=0, (−1)+(+1)=0 である ところで、正負の量は互いに反対の性質を持つ量として定義されるから、正負の量は互いに打ち消し合うという性質を持っている。したがって、同じ大きさ(絶対値)を持つ二つの正負の数は互いに打ち消し合ってその和は 0 になる。つまり、(+1)+(−1)=0, (+2)+(−2)=0, (+3)+(−3)=0, …である。また、(−1)+(+1)=0, (−2)+(+2)=0, (−3)+(+3)=0, …である。つまり、下の(3)〜(6)はすべて 0 であるし、図において負のタイルを上に、正のタイルを下に置き換えたものもすべて 0 である(式・図は省略)。小数や分数のタイルでも同じことが示される(式・図は省略)


(3)
(4)
(5)
(6)

0 の中に正の数と負の数とがともに保存されていることを示す上の図は弁証法的である。物質と反物質との対消滅のようにも見える。

(正の数)+(負の数) (7) (+5)+(−2) や (8) (+3)+(−7), (9) (−6)+(+4) のような正の数と負の数との加法は下の図のようになる。答がそれぞれ +3, −4, −2 になることは説明するまでもないだろう。この場合も交換法則は成り立つ(式・図は省略)。小数・分数についても同様なことが示される(式・図は省略)


(7)
(8)
(9)

正負の数の減法 引き算は引く数の符号を変えたたし算になることを示す。なお、「引き算は引く数を引かれる数から取り去ることである」という定義を採用する。(10) 0−(+3)=0+(−3), (11) 0−(−3)=0+(+3) をまず示す。


(10) 0−(+3)=


=0+(−3)


(11) 0−(−3)=


=0+(+3)

図から分かるように (+3) を取り去ると (−3) が現われる。この結果から (+3) を引くことは (−3) をたすことと同じであることが分かる。同様に (−3) を取り去ると (+3) が現われるから、(−3) を引くことは (+3) をたすことと同じであることも分かる。この性質は、引かれる数がどのような数であっても成り立つ。これを、(12) (+2)−(+3)=(+2)+(−3), (13) (−4)−(−3)=(−4)+(+3) について示す。スペースの都合上、式を省略する。

絶対値が同じで符号が反対である数のことをもとの数の反数という。これは英語の opposite number の訳語である。この訳語を最初に使ったのは遠山啓さんだという。


(12)



(13)


他の場合にもまったく同様な結果が示される(式・図は省略)。したがって、引き算は引く数の符号を変えたたし算になる。つまり引き算は引く数の反数を加えるたし算に直してから計算すればよいことがタイル図によって示されたわけである。小数・分数の場合も同様になることがタイル図で示される(式・図は省略)

途中説明をかなり端折ったが、以上で正負の数の加減の計算方法の説明は終りである。これで正負の数のかけ算の説明をするための準備が整った。「マイナスかけるマイナスはなぜプラスになるのか」については次稿で。いや、それにしても疲れた。