温度はたし算・引き算できないか(1)


〔2006.07.19記〕

極東ブログ」(finalventさん)の「3+2×4をどう読む?」というエントリーで「野崎先生の監修の本では、37℃+37℃は?という例もあった。とんちのようだが、重要な問いではある。」という部分に関して


「37℃+37℃は」に関しては「74℃」が正解です(「37℃よりも37℃高い温度は?」とか)が、言葉足らずでそう表現したのなら答は違ってきますね。「37℃のお湯に37℃のお湯を加えたら、温度はそのまま37℃のまま」ですが、「37℃のお湯に50℃のお湯にを加えたら?」では情報不足で答が出せません。

というコメントをしたところ、とむけんさんという方から


>「37℃+37℃は」に関しては「74℃」が正解です

>(「37℃よりも37℃高い温度は?」とか)が、言葉足ら
>ずでそう表現したのなら答は違ってきますね。

37℃+37℃は74℃、ではないです。

そもそも、温度という単位は、足し算できるものでは
ありません。

もともと、温度は最初、

「37℃の水100ccと73℃の水100ccを足したときの温度は」
と聞かれれたとき「50℃」と答えれられるように作られた
単位です。

ですが、このとき何を足してるのかを考えるには、

熱力学を勉強しなくてはいけないですし、熱力学を勉強すると、実は上の問題もかなりインチキだとわかってきます。

なので個人的には、小学校の算数で水と温度を使った問題を
出すのは、やめたほうがいいと思っています。

というコメントを頂いた。しかし、コメント欄できちんと答えるには量的に問題があるのでこちらでご返事を書くことにした。ただし、私もそうだが野崎さんもfinalventさんもせいぜいが比熱あたりまでのことをおっしゃっていると思われるので熱力学のことまでは言及しない(私は熱力学は苦手である)。

finalventさんもおっしゃっているようにこの問いは深く考えると「とんちのようだが、重要な問いではある。」わけであるが、とりあえず私としては「37℃+37℃は」と表記されている以上、これはたし算の問題であると単純にとらえた場合「74℃」が正解であるから、その旨を書いたのである。「(「37℃よりも37℃高い温度は?」とか)」という条件も書いている。

同じくコメント欄で HDK さんが書いているように量には示量的(extensive)なものと示強的(intensive)なものとがあり、化学などではそれぞれ示量因子・示強因子とよばれている。示量因子は外延的ないし可延的な量で質量・長さ・時間・体積……など同じ量どうしでたしたりひいたりできる量である。それに対して示強因子は平均・速度・密度・濃度・圧力・屈折率……といったような「度」や「率」という風に表現されることが多い量で、m/秒 とか g/l, g/g ……などと二つの量のあいだで割り算をして得られる量であり、ふつうは単純にたしたり、ひいたりすることのできない量である。

小学校では示強因子は「単位量あたり」とか「1あたりの量」とかよばれる量として習う。割り算には「30個のみかんを5人で分けると一人分は何個になりますか」のように「1あたり(6個/人)」を求めるものと、「30個のみかんを一人に5個ずつ分けると何人に分けられますか」のように「いくら分(6人分)」を求めるものとの二種類があって、前者のようにして得られる1あたり量は単純にたしたりひいたりすることができない(学校ではそこまでは言及しないことが多い)。

しかし、たとえ「1あたりの量(示強因子)」であっても同じ種類の「1あたりの量」の間で相対的な違いというものは考えられるので、その場合には一概にたしたりひいたりできないとはいえないのである。実際、天気予報などでは最高気温や最低気温を予想するときに前日との差を「+2°」、「ー3°」のように表している。気温の日較差とか年較差というのも同じであるし、地球温暖化についても「年平均〜°の上昇」などという表現は前年の平均気温との差をいっているわけである。また、すれちがう電車どうし、あるいは同方向に走る電車どうしの間で相対速度を考えるときには互いの速度をたしたりひいたりするといったこともする。

最近の中学の理科では比熱や熱容量の違うものどうしの熱のやりとりについては学ばない(私たちの時代には中1でやった)が、水の温度変化と熱量との関係については学ぶので温度どうしのひきざんというのも計算の中に登場してくる。もちろん小学校では比熱の問題などは扱わないから、とむけんさんの「なので個人的には、小学校の算数で水と温度を使った問題を出すのは、やめたほうがいいと思っています。」というのは杞憂であろう。